大気汚染と緑化
植物は呼吸や光合成に伴って様々な気体を気孔から取り込んでいる。また、微粒物質を葉面などに付着することによって集積する働きもある。このような作用により、植物には大気汚染物質の除去効果が期待できるのである。
1.窒素酸化物(NOx)
例えば、代表的な大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)については、樹高4m程度の高木1本で年間0.35kg程度吸収することがわかっている。
日本全体では年間100万トン近く排出されており、これを全て樹木に吸収させるなどというのは到底無理なのだが、環境基準を満たしていない道路周辺のNOx濃度の低減などには、一定の効果が期待できるであろう。NOxの吸収速度は植物種によって異なり、吸収速度の速い植物種(ヒマラヤザクラなど)の選抜や、バイオテクノロジーを用いた新品種の育成なども試みられている。
また、植物体だけでなく土壌での吸収効果というのも期待できる。土壌中のある種の微生物にはNOxを吸収、代謝して最終的にN2として空気中に放出する働きを持つものがある。こういった効果を期待して、土壌中に空気を強制注入して浄化する装置も開発されており、地下駐車場の空気浄化装置として実際に使われている例もある。今後の新たな事業展開が期待できる分野である。
2.硫黄酸化物
窒素酸化物と並ぶ大気汚染物質である硫黄酸化物に対しても、植物は一定の吸収効果を持っている。高木1本あたりで換算すると年間0.04kg程度吸収する。しかし、窒素酸化物の場合、一部は植物体内で代謝されて有効に使われていることが確認されているが、硫黄酸化物の場合は、一方的に植物体を痛めつけるだけである。
そういった意味からは植物を利用して硫黄酸化物を除去するという考え方はあまり積極的には薦められない。
3.二酸化硫黄
So2は比較的速やかに大気中から除去される性質があり、14%は雨水に、22%は海に、残り64%は植物、土壌などと反応して除去され、その半減期は9時間以下という試算もなされている。また、コンクリート面などの都市構造物そのものに吸着されており、植物を吸収源としなければならない必然性は薄い。
4.大気微粒物質(SPM)
ディーゼル車排気などで問題となっているSPM(大気微粒物質)についても、吸着効果が期待できる。
粉塵の捕捉効果の実測結果から推定すると、高木1本あたりで年間0.016kg程度吸着する。道路脇の樹木帯などでは年間20kg/ha程度捕捉しているという報告もあり、一種のフィルターとして機能していることがわかる。
5.鉛や亜鉛
これと同様に、空気中に飛散した鉛や亜鉛などの微細粒子も吸着する働きがある。高木1本当たり鉛は年間0.008kg程度、亜鉛は年間0.01kg程度吸着していると言う報告もあるが、これは葉面に蓄積された後、落葉とともに地面に落下して、樹木の下の土壌に蓄積されていくことになる。これらは代謝されることもないので、汚染物質が空気中から土壌中に移動しただけであり、本質的には浄化を行ったことにはならない。
6.ホルムアルデヒド
その他、シックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒドなども吸収することが知られており、こういった働きは屋内緑化などに期待されることになる。